自殺について
今、日本では自殺者が年間3万人を超えているとのことで大きな問題となっています。ここで自殺について考えてみたいと思います。
世界の自殺・他殺の現状(2011年)
WHOでは、世界各国の自殺率、他殺率について報告しています。世界150カ国を対象としています。自殺率・他殺率というのは、人口10万人に対しての人数です。例えば自殺率10といえば自殺者が人口10万人のうち10人いるということになります。
2011年の統計でみますと
1位 リトアニア 34.1人
2位 韓国 31.0人
3位 ロシア 30.1人
4位 ベラルーシ 27.4人
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8位 日本 24.4人
:
20位 フランス 16.3人
:
42位 米国 11.0人
:
97位 エジプト 0.1人
となります。
ちなみに他殺率は(2002年)
1位 コロンビア 70人以上
2位 シェラレオネ 50人以上
3位 南アフリカ 40人以上
:
149位 日本 1人以下
日本は、旧ソ連系の国々を除くと、先進国では1〜2位を争う自殺率であり、そして最低の他殺率となります。日本国内では様々な殺人事件が報道されていますが、他殺率は世界最低なのです。そして事件の発生率も昭和39年(1964年)を最高としてその後極端に減っているのが現状です。
日本の自殺(2010年)
平成22年度の日本の自殺者は警察庁の発表によりますと、31,690名で、13年連続3万人超となっています。男性が全体のおよそ70%%をしめます。年代別では、60歳以上が34.6%、次いで50歳代18.8%、40歳代16.3%、30歳代14.5%の順となります。職業別では、無職者が58.9%、被雇用者27.0%、自営業者8.6%、学生・生徒等2.9%となります。
自殺原因は、遺書などから考えると、1位が「健康問題」、2位「経済・生活問題」、3位「家庭問題」、4位「職場問題」となります。自殺率が高い都道府県は、山梨県・岩手県で、低いのは三重県・神奈川県となります。概ね、東北地方は高く、四国は低いことになります。
若者の自殺
若者の自殺についてお話しましょう。0歳から5歳毎に自殺をみてみますと、5歳以下の自殺はまずありません。もしあったとしても自殺だと判定できないでしょう。6歳頃からボツボツ自殺が始まります。しかし、5~9歳の自殺は極めて少なく、最近の20年間をみても年に0~3人の自殺者があるに過ぎません。10歳を過ぎると少しずつ自殺者が現れてきます。加齢に伴って自殺者は増えていきますが、まだ14歳以下の自殺率は低いものです。文部科学省が日本全国の自殺者数・自殺率を発表していますが、14歳以下は年に約50~90名の自殺者があるだけです。15歳以上では自殺率は急増します。20歳以上はさらに自殺率は増え、55歳~59歳まで増え続けます。その年齢を過ぎますと自殺率は低下します。そして、70歳を越すと自殺率は増えだし、85歳~89歳、90歳以上で最大となります。
10歳、20歳代での自殺は、年により大きくバラツキがあります。1986年(昭和61年)は、他の年と違い非常に高いピークを示しています。この年はアイドル歌手が飛び降り自殺をした年で、マスコミが大々的にその報道をしました。このような影響を受けて若者の自殺がその年多かったのでしょう。若者の自殺は、社会変動のバロメーターといわれる所以です。不安な社会の中で不安定な心を持った若者が、ちょっとしたキッカケで自殺に踏み切るのです。
年齢や社会情勢によって男女の自殺者の差は変動しますが、どこの国でも、どの時代でも、どの年齢層でも、男性の方が圧倒的に女性より多いのです。この原因は、男と女という生物学的なもの、社会的要因などが考えられています。
季節ごとの自殺頻度をみてみますと、若者の場合は秋と春に多く、夏と冬には少ないという特徴があります。自殺時間は昼間が最も少なく夕方が一番多いようです。自殺の場所は自宅や近所が多いのですが、女性の10代後半だけ自宅から離れた場所が多いのです。若者の心は家庭と関連する物事で傷つき、そして自殺に踏み切ることが多いのです。
全自殺者の自殺方法は、
1位 首吊り
2位 飛び降り
3位 服毒
4位 入水
5位 ガス
6位 飛び込み
7位 焼身
8位 刃物
9位 感電
となります。男女により、年齢により自殺方法の順位は少し変わりますが、総合的にはほぼ上記の通りです。
若者の自殺の動機は、判定がなかなか困難ですが、警視庁や文部科学省の発表によりますと、家庭事情、進路問題、精神疾患、恋愛問題、学業不振などとなっています。アメリカや日本などの先進国では、優秀な大学の学生ほど自殺者が多い傾向にあるといわれています。親からの期待、自分に合わない部門への進学の苦痛、性や恋愛の問題、思想や社会情勢などさまざまな悩みが重なって自殺がおきるのです。
しかし、若者の自殺は、多くはその人格形成と関連します。幼少時より親の価値観の押し付け、自分の個性を認められない、信頼されない感覚の持続、親に対するあきらめと復讐心など、精神科医の斉藤学(さとる)氏がいう家族の中にある大きな苦しみが、若者を自殺に追いやるのです。しかし、その苦しみは外部には殆んど分かりません。家族の中の闇なのです。
家族の闇は、現在の日本が抱えている社会事情も影響を与えます。若者達は、インターネットで知り合っただけの関係で、一緒に自殺することがあります。1人で自殺するのは勇気が要りますが、複数だと踏ん切りがつきやすいからです。日本の国全体で、若者を自殺から何とか救いたいものです。
「自殺を考えているのに、自死する人としない人がいるのはどこが違うのか」
2009年アメリカのジョイナーはこんな題で自殺者について発表しました。結論からいうと自死する人は、自殺したい気持ちを持っていて、自殺する能力がある人ということになります。
それは、1)孤独感があり、2)自分は「お荷物だ」という罪責感があり、その上で、3)「自殺する力」がある人が自殺するのです。
最近の離婚や失職、自分を必要としている人がいないと孤独感に苛まれ、長期に亘る病気などから自分はお荷物であると感じ、幼い頃から親から受けていた体罰などにより痛みや恐怖感に慣れ、慣れていない場合はアルコール等により一時的に恐怖感を減らして、自殺を完遂するのです。
以上のような知識を持って、自殺を考える時、少しずつ解決法が見えてきます。孤独感を持っている人には、暖かく接し、罪責感を持っている人には「あなたは何も責任がない」と知らせ、精神的に支える状況を作ることが最も大切です。しかし、自殺したい気持ちを持っているかどうかを見つけることは難しいし、精神的に支えることは支える人にとっても辛いことです。このような時、精神科医を頼ることは非常に重要なことでしょう。
厚生労働省では平成24年度(2012)から、重要な4疾病に精神疾患を追加して5疾病としました。精神疾患を持つ人は人口の19%と厚労省は発表していますが、この中で「死にたい」と考えている人は、その内の60~80%であろうとある研究者は云っています。地球上で唯一自殺するまで進化した生物である「ヒト」を、「自殺」から少しでも救っていくことは人類の最大の課題のひとつではないでしょうか。