成人の発達障害
私のクリニックを受診する患者は、うつや不安・不眠・妄想を呈する患者が今までは大部分であったが、最近は「私は発達障害ではありませんか」「発達障害かどうか診断して下さい」という患者が急増している。
成人の発達障害とはどんなものか。これは今の精神医学界で、最も注目されている分野の一つである。発達障害の定義は、ICD-10によると下記のようになる。
- 発症は、常に乳幼児期あるいは小児期である。
- 中枢神経系の生物学的成熟に深く関係した機能発達の障害あるいは遅滞である。
- 多くの精神障害に認められる寛解や再発がみられない、安定した経過である。
- 通常、遅滞や機能障害ははっきりと認められるずっと前から存在するもので、正常な発達期間が存在することはない。これらの障害は、男児に多く認められる。
- 発達障害の特徴として、同様の障害あるいは類似した障害が家族歴に認められるのが普通であり、遺伝的な要因が病因として重要な役割を演じている証がある。
ということになる。
発達障害は下記に分類される。
- 精神遅滞
- 広汎性発達障害
- 注意欠陥・多動性障害(AD/HD)
- その他
- 会話及び言語の特異的発達障害
- 学習障害
- 運動能力障害
それぞれの発達障害について述べる。
精神遅滞(知的障害)は、
IQ=69~50(軽度精神発達遅滞)
=49~35(中度精神発達遅滞)
=34~20(重度精神発達遅滞)
=20未満(最重度精神発達遅滞)
と分類され、知的能力の障害により、能力低下や社会的不利を生じ、生活、学習、労働など人間生活の営みに支障をきたすものである。
広汎性発達障害は、自閉症スペクトラム障害と、他の自閉症障害に分類され、次の症状をもつものである。
対人的相互反応の障害:他人と視線が合わなかったり、情緒的交流ができないもの。
意思伝達の障害
:他人とうまく話し合えない。同じ言葉を繰り返したりする。
行動、興味および活動の障害
:異常なほど同じものに熱中したり、こだわったりする。
:反復的に衒奇行動(手や指をぱたぱたさせたりする)をすることがある。
以上の症状を示すものが、広汎性発達障害である。自閉性障害があり、知的能力の障害が無いものをアスペルガー障害という。
他に、レット障害、小児期崩壊性障害等があるが、説明は省く。
注意欠陥・多動性障害(AD/HD)
多動性・不注意・衝動性の三大徴候で定義される。通常、幼児期の多動性は、成人期になると消失する。
成人期には、不注意が中心となるが、これにより就労場面で失敗を繰り返し、就労できなくなる者も多い。
その他の発達障害としては、下記のものがある。
- 会話や言語の特異的発達障害(会話や言語能力だけがうまくできないもの)
- 学習障害(ある特定の学習だけが極端にできないもの)
- 運動能力障害(運動能力だけが極端に劣るもの)
診断は、綿密な行動様式の把握と、様々な検査を組み合わせて行う。検査は、下記のものを用いて行う。
- 注意欠陥多動性障害検査(DSMの診断に基づき作成されたもの)
A:多動性リスト
B:不注意リスト - 広汎性発達障害
広汎性発達障害検査(PARS)(日本自閉症協会評定尺度) - 成人知能検査(WAIS-Ⅲ)
- 小児・思春期知能検査(WISC-Ⅳ)
診断は、これらの検査結果や他の精神疾患を考慮に入れて行う。発達障害児(者)には、下記のような治療法が考えられている。精神遅滞と広汎性発達障害は、
① 自分の能力の程度や偏りを知る
② 自分の家族の発達障害を理解する
③ 自分と同じ症状の他の人を知る
④ 生活面での工夫
⑤ 2次的に生じるうつ状態、不安障害、その他の精神疾患を改善するために
薬物療法等を行う。
AD/HDに薬物療法が考案されている。
ストラテラ、コンサータを用いる。
もちろん、毎日の生活に不注意による失敗を減らすような工夫が必要である。発達障害の発生率(厚労省の発表 2013)は、精神遅滞は1%前後、広汎性発達障害は1~2%、AD/HDは約3~7%、学習障害は約2~10%、運動能力障害は約5%であると考えられている。私達の家庭生活や社会生活の場面で、様々な人間関係の不都合が起きるが、その原因となっているのは「成人の発達障害」であることは少なくない。成人の発達障害の概念が確認されて10数年、家族や職場にひそむこれらの人々(自分かもしれない)を理解することは、医師として重要なことであろう。